- 2025年12月12日から、材料費等を書いた見積書とその見積りについての注文者との打合せ記録が、残すべき「営業に関する図書」に加わりました(建設業法施行規則26条5項4号・5号)。
- この2つは、元請だけでなく、下請で入った工事でも残す対象です。期間は工事ごとに、引き渡したときから10年(同28条2項)。
- 見積書を作ること自体は努力義務(建設業法20条1項)。義務になるのは、作った見積書を捨てずに残すことです。
何が変わったのか
建設業法40条の3は、建設業者(許可を受けた業者)に、営業所ごとの帳簿と、営業に関する図書を保存するよう求めています。どの図書を残すかは、国土交通省令である建設業法施行規則26条5項が決めています。
この26条5項が、令和7年国土交通省令第119号(2025年12月10日公布)で改正されました。附則により、施行日は建設業法等の改正法が完全施行される日と同じ2025年12月12日です。国土交通省は、改正法の完全施行を2025年11月14日の報道発表で知らせています。
改正後の26条5項には、図書が5つ並んでいます。
| 号 | 図書 |
|---|---|
| 1 | 施工上の必要に応じて作成し、または発注者から受け取った完成図 |
| 2 | 施工上の必要に応じて作成した、工事内容に関する発注者との打合せ記録(請負契約の当事者が相互に交付したものに限る) |
| 3 | 施工体系図 |
| 4 | 建設業法20条1項の材料費等記載見積書(作成したとき) |
| 5 | 契約締結の前に必要に応じて作成した、4号の見積書の内容に関する注文者との打合せ記録 |
今回増えたのが4号と5号です。そして、4号・5号については、残す人の範囲に「これら以外の建設業者」、つまり発注者から直接請け負っていない下請の建設業者が入りました。ここが、いちばん知られていないところです。
「材料費等記載見積書」とは
4号が指す見積書は、建設業法20条1項で定義されています。要点は次のとおりです。
つまり、一式いくらの見積りではなく、材料費・労務費などの内訳と工程ごとの日数まで書いた見積書のことです。20条には、ほかに次のような決まりもあります。
- 見積書に書く材料費等の額は、通常必要と認められる額を著しく下回ってはならない(20条2項)。
- 注文者から請求があれば、契約が成立するまでに見積書を交付しなければならない(20条4項)。注文者の承諾があれば電子での提供も可(20条5項)。
- 注文者は、材料費等を著しく下回るような変更を求めてはならない(20条6項)。
5号の打合せ記録は、この見積書の内容について、契約前に注文者と打ち合わせた記録です。2号の括弧書きが5号にも及ぶため、請負契約の当事者が相互に交付したものに限られます。社内だけのメモは、条文の書き方からは対象外と読めます。
誰が、どれを残すのか(立場別の一覧)
26条5項は、会社の立場によって残す図書を3つに分けています。「作成建設業者」とは、その工事で施工体制台帳を作成する建設業者のことです(施行規則14条の2第1項1号、建設業法24条の8第1項)。
| 立場 | 1 完成図 | 2 打合せ記録 | 3 施工体系図 | 4 見積書 | 5 見積りの打合せ記録 |
|---|---|---|---|---|---|
| 元請(施工体制台帳を作成する) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 元請(施工体制台帳を作成しない) | ○ | ○ | — | ○ | ○ |
| 下請(一次・二次以下) | — | — | — | ○ | ○ |
同じ会社でも、工事によって立場は変わります。ある工事では元請、別の工事では下請、ということは普通にあります。残すものは会社単位ではなく、工事ごとに決まると考えると間違えにくくなります。
いつまで残すのか
保存期間は施行規則28条が決めています。帳簿と図書で、期間も起算点の書き方も違います。
| 何を | いつから | 何年 |
|---|---|---|
| 帳簿と添付書類(28条1項) | 工事ごとに、目的物を引き渡したとき(請負契約の債権債務が消滅した場合はそのとき) | 5年(発注者と結んだ住宅新築工事は10年) |
| 営業に関する図書(28条2項) | 工事ごとに、目的物を引き渡したとき | 10年 |
ポイントは、事業年度の終わりから数えるのではないことです。工事ごとに引渡日から数えるので、同じ年に作った見積書でも、引渡しの遅い工事ほど長く残ることになります。引き渡す前は、期限そのものがまだ始まっていません。
例:2026年3月に見積書を出し、4月に下請で受注、2027年1月20日に引き渡した工事なら、その見積書は2037年1月20日まで残します。(説明のための例です)
紙でなくてもよいか
紙で残す必要はありません。26条8項は、図書がパソコン等のファイルや記録媒体に記録され、必要に応じて営業所で紙や画面にはっきり表示できるときは、その記録で図書に代えられるとしています。PDFで受け取った見積書や、メールで交わした打合せ記録をデータのまま残すのも、この条件を満たせば認められます。
ただし「営業所で必要に応じて表示できる」ことが条件です。担当者のスマホやメールボックスの中にしかない状態は、退職や機種変更で消えるおそれがあります。工事ごとに決まった場所へ集めておくのが安全です。
残さないとどうなるか
条文で確かめられる範囲は次のとおりです。
- 過料:建設業法55条5号は、40条の3に違反して「帳簿若しくは図書を保存しなかつた者」を10万円以下の過料としています。
- 指示処分:許可行政庁は、建設業法の規定に違反した建設業者に必要な指示をすることができます(28条1項)。
- 営業停止:指示に従わないときなどは、1年以内の期間を定めて営業の全部または一部の停止を命じることができます(28条3項)。
実際にどの処分になるかは事案ごとの判断で、この記事では断定しません。
よくある疑問
契約が取れなかった工事の見積書も、10年残すのですか
28条2項は保存期間を「請け負つた建設工事ごとに、引渡しをしたときから」と定めています。この書き方からは、請け負った工事の図書を想定していると読めます。受注に至らなかった見積りの扱いについて、この記事では断定しません。迷う場合は許可行政庁に確認してください。いずれにしても、受注した工事の見積書を「もう終わった紙」として捨てているなら、そこは改める必要があります。
見積書を作っていない工事はどうなりますか
見積書の作成は努力義務です(20条1項「作成するよう努めなければならない」)。作っていなければ、4号の見積書は存在しません。ただし、注文者から請求があったときは、契約成立までに交付しなければなりません(20条4項)。
元請に出した見積書の控えでよいですか
図書は「又はその写し」でもよいとされています。自社が出した見積書の控え(写し)を残す形で足ります。
帳簿を付けていないと、図書だけ残しても意味がないですか
帳簿の備え付けと図書の保存は、どちらも40条の3の義務です。帳簿については建設業法の帳簿の解説にまとめました。
今日からできる確認
- 2025年12月12日以降に下請で入った工事を書き出す。
- それぞれの工事で、材料費・労務費の内訳を書いた見積書を作ったかどうか確かめる。
- 作っていたら、その見積書(控え)と、注文者と交わした打合せ記録が、いま手元にあるか確かめる。
- 工事ごとに引渡日を記録し、そこから10年の期限を書いておく。
- メールやLINEにしかない記録は、工事ごとのフォルダに集める。
AI番頭 建太くんでは
建太くんの帳簿番頭は、工事ごとにその会社の立場(元請/施工体制台帳を作った工事/下請)で、残すものだけを出し、要らないものは「対象外」と書きます。引渡日を入れると10年後の期限を数え、引き渡してから30日のあいだは、印のついていないものを朝のLINEでお知らせします。帳簿と同じ紙に刷れます。
見積書の中身を作ったり、保存の判断を代わりにしたりするものではありません。残すべきかの最終判断は、御社で行ってください。
参考にした一次資料
- 建設業法(e-Gov法令検索):20条、24条の8、28条、40条の3、55条
- 建設業法施行規則(e-Gov法令検索):14条の2、26条5項・8項、28条、附則(令和7年12月10日国土交通省令第119号)
- 国土交通省 報道発表「持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます」(2025年11月14日)
関連する解説
- 作業員名簿の書き方と記入例元請に出す作業員名簿の各欄に何を書くか、記入例とあわせて解説します。
- 再下請負通知書の書き方と記入例施工体制台帳を作る工事で、さらに下へ請け負わせたときに元請へ出す再下請負通知書の書き方を、記入例つきで解説します。
- 持込機械等使用届の書き方現場に機械を持ち込むときの届の書き方と、添える点検・資格の情報を解説します。
- グリーンファイルとは安全書類(グリーンファイル)に何が入っているのか、全体像をまとめます。
- 新規入場者アンケートの書き方初めて現場に入る人が書く新規入場者アンケートの書き方を解説します。
- 熱中症対策の義務化で建設現場がやること2025年6月施行の安衛則612条の2。報告体制と手順の決め方を、掲示・手順の例つきで。
- KY活動の例文集|工種別の危険と対策掘削・高所・玉掛・重機など13の工種と天気ごとの例文。ネタ切れの日の考え方も。
- 建設業法の帳簿とは|何を書き、何年残すか建設業法40条の3の帳簿に書く項目・添付書類・保存期間を、条文に沿って一覧にします。
- 解説の一覧を見る書類・安全・法令の解説をまとめています。